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ロンドン 戦禍への鎮魂 赤い花

2009年01月16日

 この季節の英国では少なからぬ人が襟元に真っ赤なケシの花を着ける。生花ではなく、紙でできた造花だ。

 90年前の今月11日、第一次大戦が終わった。初の近代的大規模戦と呼べば聞こえはいいが、飛行機、戦車など今日的な大量殺戮(さつりく)戦の始まりである。

 特にフランダース地方など欧州西北部では、凄惨(せいさん)な塹壕(ざんごう)戦が繰り広げられた。若者らの血が染み、荒れ果てた地に咲き乱れたのが、ケシの花なのだという。

 造花の売り上げは、戦死者の遺族や傷痍(しょうい)軍人への支援に使われる。英国では、今年だけで30人以上の若者がアフガニスタンから棺(ひつぎ)で帰ってきた。

 あなた方が死んだ者との信義を破るのなら、われわれは眠ることはできない。フランダースの野に、ケシの花畑が広がろうと-。ケシ花の運動の契機は、目前で多くの戦友を失ったカナダ人軍医が書いた詩だった。赤い花の下には、90年たっても眠られぬ魂があるのだろう。

 (星浩)