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ローマ 保全のはずが破壊に

2009年06月10日

ベネチア広場は、ローマ観光で誰もが一度は訪れる名所。本来なら今ごろは季節の花で彩られる。その広場が中央を工事用フェンスで囲われていて、何とも味気ない。地下鉄敷設に先立ち、考古学調査が進行中なのだ。

歴史的建造物を保存維持する必要上、市内では近代的道路網を整備できなかった。おかげで慢性的に渋滞する車の排ガスで大気汚染が深刻化。酸性雨の影響で建材の大理石の劣化も加速した。対策として地下鉄建設が進められ、やっと3線目に取り掛かっている。

広場の地面を掘れば当然、古代に栄えた街の遺跡が出てくる。工事で失われる前に、古代地誌に欠ける貴重な遺跡部分を探索しようと、さらに広場内の樹齢百年を超す松の大木20本を惜しげもなく切り倒した。

環境保全を名目にした地下鉄工事が遺跡をつぶし、遺跡調査が貴重な緑の環境を消す。長く親しんだ風景があれよと言う間に失われローマっ子は戸惑うばかりだ。

(佐藤康夫)