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ソウル 辛苦の末手にした時

2010年03月09日

 元北派工作員の韓相●さんと7年ぶりに再会した。北派工作員とは、朝鮮半島を分断する軍事境界線を越えて北朝鮮に潜入し、スパイ活動などをした韓国側の工作員だ。韓さんをはじめ元工作員は極秘任務のゆえ、長らく口を閉ざすことを余儀なくされ、国家による十分な補償も受けられない日が続いた。

 一昨年までの3年間を韓国中部の刑務所で過ごした。名誉回復と補償を求めて行った過激なデモの責任を問われたのだという。「でもね、刑務所暮らしはまんざらでもなかったよ」。獄中でまとめた工作員経験の手記が昨年夏、本になった。

 2004年に施行された法律に基づいて退役から40年近くを経てやっと、補償金を手にした。いまは食材会社の顧問。「今年で還暦。名誉も回復できたし、いつ死んでも悔いはない」と韓さん。私が「亡くなった戦友の分まで人生を楽しまなきゃ」と返すと、しばしの沈黙後、「そうだね」とほほ笑んだ。 (城内康伸)

(注)●は、さんずいに「文」