2010年03月08日
「生きている作曲家に触れるなんて、すばらしいですね」。舞台上で指揮者が、1962年ニューヨーク生まれの作曲家ヒグドンさんの肩をたたきながら聴衆を笑わせた。先日のナショナル交響楽団(ワシントン)の演奏会。世界初演された彼女のピアノ協奏曲は会場総立ちの喝采(かっさい)を受けた。
歌舞伎の世界でも新作を見るのは興奮する。慣れた芸術作品に身を委ねるのは確かに楽だ。でも同時代の社会問題に悩む人々が生み出す緊張みなぎる作品にこそ、新たな感動が味わえる。
約20年前、ウィーンで1カ月に及ぶ現代音楽祭が始まったころ客席は寂しかった。演奏家が何の演奏もせずに退出するケージ氏の作品「4分33秒」を生んだ米国でも聴衆の好みは保守的だ。
そんな中、ヒグドン人気の秘密は斬新すぎないこと。聴衆につかず離れず…がベストのようだ。
(嶋田昭浩)