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石家荘 実と引き換えの痛み

2010年07月12日

 「卵かけうどん、食べてって」-。中国製ギョーザ中毒事件の容疑者の実家にたどり着いたのは昼時。突然の訪問者、それも見知らぬ外国人だというのに両親は、人懐こい笑顔で出迎え裏山で手折った枝を燃料に石を囲んだだけの屋外のかまどに火をおこし始めた。

 聞けば現金収入はトウモロコシ栽培による年約2万7000円だけ。テレビも電話もない中国の貧村の典型だ。にもかかわらず「遠方からの客人だから」と、飼っている鶏が産んだ貴重な卵を4個も。母親が古い油でいためようとすると、父親がさらの油を使わせた。

 最大限のもてなしを受けながら、あれこれ聞き出したのは、ある意味、裏切り。取材から戻ると「ひどい人ね。息子さんが捕まったこと、何も知らない両親に話したんでしょ」と妻に責められた。

 仕事は仕事。でも、ことを伝えたその瞬間、がっくりとひざをつき動けなくなった父親の姿を思い出すたび、みぞおちが痛む。

  (朝田憲祐)