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マドリード 曲楽しめない桟敷席

2010年08月13日

 青空の午後、マドリードの石畳の広場でひと休み。流しのアコーディオン弾きが定番の「パリの空の下」を演奏し、カフェの屋外席の客からチップを集めて引き揚げた。

 10分後、今度はギターを抱えた若い男性がやって来て、英国の歌手エルトン・ジョンさんの「僕の歌は君の歌」を独唱。音程も拍子もおかしくて、誰も小銭を渡さなかった。

 さらに10分後、テナーサックスとアコーディオンの4人組が登場。ご当地のフラメンコのリズムも取り入れた陽気なジャズで、立ち見客の中にはステップを踏む人もいた。

 ポケットから50サンチーム(約60円)硬貨を取り出しながら気づいた。広場に面したアパートに真新しい横断幕が掲げられている。

 「あなたの小銭=私たちへの音の拷問」

 好きでもない曲を朝から晩まで聴かされる住民の身になってみろという意味らしい。

 硬貨は引っ込めた。流しの楽団は次の広場に立ち去った。 (清水俊郎)