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プノンペン つらくても描く虐殺

2010年10月18日

 ポル・ポト政権時代(1975~79年)の大虐殺現場を描き続けてきた画家バン・ナットさん(64)のプノンペンの画廊を1年半ぶりに訪れた。虐殺や拷問を描いた展示中の絵からは、真実の迫力が伝わる。

 現在ではわずか数人といわれるトゥールスレン政治犯収容所の生存者。所内では“特殊技能者”として、むち打ちなど拷問からも逃れられた。「最初にポル・ポトの肖像画を描かされ、画家として認められた。その後、半年間、肖像画を描き続けた」と言う。

 80年以降、大虐殺の歴史を伝えるため自ら当時の絵を描いた。殺された人々の顔や拷問現場を思い起こし、描く作業は「30年後の今でもつらい」と話す。精神を病んだこともあったという。

 体調が悪いため、今はしばらく制作を休んでいるが、回復したら続けるそうだ。想像を絶する苦しい作業を続ける理由を聞くと、こう答えた。「私の絵はまだ完成していないから」(古田秀陽)