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マニラ 強者との闘い命懸け

2010年09月01日

 「父はいません」。フィリピン北部の農民に電話すると、携帯電話なのに息子が出た。父親は、農地解放を求めて大地主を相手に闘う農民組織の代表。こちらの身元が分かると、「最近はほとんど帰ってこない。電話も変えた」と別の携帯電話を教えてくれた。

 彼は、最近始まった農地改革をめぐる農園主側と農民の交渉に反対している。本人に連絡を取ると、最近不審な男たちが家の周囲をうろついているので自宅を離れた-という。「農園側の私兵だと思う」と話す。彼らが農園でストをした六年前には、農民たち七人が射殺されている。

 貧しい彼の小さな家に遊びに行ったときのことを思い出した。そばにぴったり寄り添う2人の若者がいた。「息子さん?」と聞くと「違うよ」と苦笑した。Tシャツにサンダル姿の2人は、腰に銃を差したボディーガードだった。

 フィリピンでは昔も今も、強い者に立ち向かうのは言葉通り命懸けだ。(吉枝道生)