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ソウル おいしい仕事だった

2010年11月09日

 1988年のソウル五輪直前、日本に留学した金さんは語学研修を終えた後、東京の製菓学校に通った。「韓国のパンはまずい。日本で製法を学べば、必ず当たる」と、自信満々だった。

 当地に初めて赴任した90年代前半に金さんと再会すると、パン職人ではなく衣料品販売を営んでいた。金さんいわく「韓国でパン屋はもうからない」。

 確かに当時、当地では、パサパサしてのどをなかなか通らず、まずいパンが多かった。ふんわりした食感のパンにありつけるのは一流ホテルなど限られた場所だった。

 それが今では手作りパンのチェーン店が街の至る所にあり、うまいパンが手軽に手に入る。当地で最近まで大ヒットしていた連続テレビドラマは、パン職人を目指す若者が主人公だった。

 時代の先を行こうとした金さんとは久しく会っていないが、パンを食べるたびに思い出す。いま、再びパンを焼いているのだろうかと。(城内康伸)