2010年12月06日
「根岸英一・すみれ」。墨で書かれた漢字の表札が目に入った。ノーベル化学賞を受賞した米パデュー大・根岸教授の自宅を訪れた時のこと。インディアナ州ウエストラファイエットの閑静な住宅街にある自宅は、ほかにも掛け軸やフォークソングのCDなど日本の物があふれていた。半世紀を米国で過ごした夫妻の、今なお強い母国への思いが感じられた。
英語に苦労しながら2人の娘を育て、夫の研究を支えたすみれさん。一時、日本に帰りたい思いも芽生えたとか。でも、娘たちが髪や目の色をからかわれながらも努力して米国の暮らしになじんだのに「また親の都合で戻るのもかわいそう」と思い直したという。
すみれさんは現在、地元の病院で日本人患者の通訳を務め、医者との意思疎通を助ける仕事をしている。受賞当日もパーティーなどの誘いを断りずっと患者に付き添っていた。日本への愛を忘れず、世界的化学者を支え続けた妻の姿に頭が下がった。(加藤美喜)