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イスラ・ムヘーレス 跳びはねた想像の海

2011年01月20日

 白い波頭が激しく揺れる紺碧(こんぺき)の水面から、灰白色の巨大な魚が垂直に跳ね上がった。フッキング(針がかり)した瞬間だ。いったん水没しても、また空に向かって跳び、全身をきらめかす。尾びれで海面をたたいて暴れる「テール・ウオーク」も、こんな壮絶な光景は初めてだった。

 釣り船の仲間が交代で重いリールをまく。ようやく揚がった魚は長さ2メートル。槍(やり)のように伸びた上あご。船の帆のように広がる黒々とした背びれ。日本のバショウカジキの仲間で「セイル(帆)・フィッシュ」と呼ばれる。大きさこそクジラほどではないにせよ、時速100キロ超の水中最速の生物とされる。

 メキシコ東部イスラ・ムヘーレス島の沖。キューバとの間のカリブ海での釣り。この海を愛したヘミングウェーの小説「老人と海」を繰り返し愛読してきたが、想像の世界が現実として眼前に繰り広げられた。神々しいばかりの大海の神秘。全員一致で海へ帰した。 (嶋田昭浩)