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モスクワ テロ対策うわべだけ

2011年04月14日

 自宅の居間のサイドボードに小さなマトリョーシカを飾っている。雪だるまがほほ笑んでいる温かなデザインが気に入っている。妻が友人のロシア人女性からもらった新年のプレゼントだ。

 友人の名前はマリーナ・バベンコさん。1月下旬、37人が犠牲になったモスクワ近郊の空港爆破テロ事件で、犠牲者リストの上から2番目にその名がある。享年45歳だった。

 個人的には顔を覚えている程度だったが、優れた日本語通訳者で、モスクワの日本人社会ではよく知られた存在だった。事件当日は日本人ツアー客を出迎えに行き、爆発に巻き込まれた。長女(19)は東海大学に留学中で、本来なら2月に訪日し、親子旅行を計画していたという。

 事件から1カ月余り。ロシアのメドベージェフ大統領は交通機関の警備強化など再発防止策をしきりとアピールしている。が、耳に入るのは金属探知機の設置といった表面的な話ばかり。

 事件で自爆実行犯とされたのはイスラム武装勢力の20歳の男だが、長女と同じ年ごろの若者がなぜ凶行に走ったのか、その検証はほとんどない。

 テロは許せない。ただ、あのマトリョーシカを見るたび、テロの根本原因から目をそむけるロシア政権にも「ふざけるな」と思う。 (酒井和人)