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台北 重い歴史美化を嘆く

2011年04月25日

 64年前、政府の腐敗に抗議運動を起こした民衆を武力弾圧した2・28事件の台北市記念館が新装オープン、早速見に行った。以前の展示と比べると全体にスマートに。言い換えれば、事件のむごさ、弾圧のひどさが大分消えている。

 「1万8000人から2万8000人」-事件による死者を示す数字をメモしていると、そばから「実際はもっと多かったよ」と年配の男性が声をかけてきた。こちらが日本人だというと、たまっていた不満をぶちまけるように片言の日本語を交えて話し始めた。

 「蒋介石が部隊を派遣して虐殺したのにその蒋介石を美化している」。男性は事件当時はまだ3つで記憶はないが、小学校の先生だったいとこが事件で殺されたという。確かに政府の数年前の調査報告は「事件の元凶は蒋介石」と名指し批判した。それが国民党政権になっての新たな展示では民衆の慰撫(いぶ)にも努めたことも強調している。

 政府は記念日を祝日とし、記念行事も実施している。今年は3連休となることもあって、行楽地はにぎわっているが、記念館を訪れる人は多くはない。事件の風化が展示を変えたのか、展示の変化が事件の風化を早めているのか。個人で事件の発掘調査を続けてきた阮美●さんは「2・28は慶祝ではなく追悼なのに…」と嘆いている。 (迫田勝敏)

(注)●は、女へんに朱