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ニューヨーク 旋律の思いは届くか

2011年05月10日

 「あなたの部屋に10歳以下の子どもは住んでいますか」。先日、アパートの大家から毎年恒例の確認の手紙が届いた。ニューヨーク市の条例で、10歳以下の子どもが住む部屋は窓に柵を付けなければならない。転落を防ぐためだ。

 この手紙が届くといつも20年前に起きた悲劇を思い出す。1991年3月20日の朝、歌手エリック・クラプトンさんの息子コナー君=当時(4つ)=がマンハッタンの53階の高層コンドミニアムから落ちて亡くなった。

 当時のニューヨーク・タイムズ紙によると、窓はお手伝いさんが清掃した後で、開け放たれていた。コナー君はパジャマ姿でお手伝いさんの脇を駆け抜けた。そして、詳しい状況は不明だが、柵のない窓から落ちてしまった。

 最愛の息子を失ったクラプトンさんは後に名曲「ティアーズ・イン・ヘブン」を書いた。天国にいる息子にささげた鎮魂歌だ。深い悲しみを癒やすような優しい旋律は、聴く者の心を強く打つ。

 某国の独裁者の次男はクラプトンさんの大ファンという。最近もシンガポールのコンサートで熱狂している姿が報じられた。どんな思いで彼の曲を聴くのだろう。人の痛みに共感できる、繊細な感性の持ち主だと思いたい。クラプトンさんには「チェンジ・ザ・ワールド」という曲もあるのだが。 (加藤美喜)