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上海 日本産 手のひら返し

2011年05月19日

 「日本産は使っていません」。上海の日本料理店で中国人店長はきっぱり言い切った。思わず、飲んでいた熱かんが鼻へと逆流し、むせ返ってしまった。数週間前まで、長崎直送のアジだとか、築地から来たマグロだとかを、自慢げにうたっていたではないか!

 五万人以上の邦人が暮らす上海。地理的に近いだけでなく、人や物の行き来が激しいとあって、東日本大震災の影響がそこかしこに見られた。

 福島第一原発の事故を受け、市民は微量のヨウ素を含む塩の購入に走った。塩が売り切れたら、塩分を含むというだけで、次はしょうゆが売れた。地元紙が「効き目なし」と呼び掛けたとたん返品ラッシュと相なった。

 大手デパートでは、地震前の製造年月日が記された日本の食品が売れた。刺し身売り場には「日本産ではありません」の張り紙が。極め付きは上海発のクルーズ船。福岡へ向けて出航後、乗客らが「日本は危ない」と騒ぎ、海上で予定を変更。韓国に寄港して、上海へと戻ってきた。

 酔った勢いで、店長に聞いてみた。「本当は日本産なんでしょ?」。店長は「信じてくださいよ。日ごろから、うちの魚は(中国の)大連産です」と、なぜか胸を張った。店からは「日本直送」「長崎産」などののぼりが、いつの間にか消えていた。 (今村太郎)