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ロンドン 権利行使の権利優先

2011年07月15日

 「満員の通勤電車に乳母車と一緒に女性が乗り込んできて、どうかと思いました」。知り合いの英国人女性がロンドンの地下鉄での体験を振り返った。すし詰め状態は、赤ちゃんにとってよくないうえに、場所を取る乳母車は迷惑という意味だった。

 思わず「自分だったら乗り込む時間を少し早めるか遅くするね」と話すと、憤慨していたはずの女性が、こう言った。「とても日本的な考えですね」。予想外の反応に「じゃあ、あなただったら、一体どうするの」と問うた。

 返ってきた答えは、さらに予想を超えていた。

 「やはり、その満員電車に乗ります」。詰まるところ、電車に乗る権利はだれにも平等にあるのだから、それを行使するのは当然だという考えだ。「そう思うなら最初から、むっとしないでほしい」と半ばあきれたが、はっと思い当たった。

 これが自分の権利を主張する代わりに、他人も権利を主張することを認めるという発想なのか、と。「周りに迷惑をかけるし、赤ちゃんにもよくない」といわば公益が初めにくる日本と、まずは個人の権利を優先する西洋。どっちがいいか分からないが、権利を主張するのが好きな自分にも多少は日本人らしさがあるということだけははっきりした。 (有賀信彦)