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カイロ ナイル川祈りと誓い

2011年07月26日

 6月6日、日が傾いたカイロ。ナイル川に架かるカッスリニール橋で、数百人の若者らが並んだ。一様に沈黙したまま。「君を忘れない」。こんな手書きの紙を掲げて、1人の青年の死を悼んだ。

 エジプトの民衆革命で、若者らの怒りの発端となったハリド・サイードさん=当時(28)=殺害事件。昨年6月、警察の不正を告発して警官らに暴行を受け、死亡した。事件から丸1年に合わせ、追悼が呼び掛けられた。

 泳ぎが得意だったサイードさん。幼少時、母ライラ・マルズークさん(67)は、自宅近くの海に、危険を承知で1人で遊びに行かせていた。「あの子を自立心の強い人に育てたい、と思ったのです」

 成長後は、コンピュータープログラマーとして活躍。ある日、警察の不正を知って強権支配に1人で立ち向かい、命を奪われた。

 若者たちがナイル川を選んだのは、水辺を愛したサイードさんを偲(しの)ぶため。反政府デモ中に亡くなった、多くの仲間の写真を掲げる参加者も目立った。

 犠牲者らが望んだ民主的で汚職のない社会は、まだまだ実現したとは言えない。だが、マルズークさんは穏やかな表情で言った。

 「私は、この国の未来を疑いません。若者たちは、新しい政府を恐れず注意深く見守り、過ちを決して許さないでしょうから」 (今村実)