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パリ 花の都もう1つの顔

2011年09月26日

 観光ガイドには決して載らないパリの姿が目の前にあった。市の北部。訪ねた郵便局の扉は閉められ、張り紙に「職員への暴行事件により本日休業」。通行人の男性が「さっき若者が暴れたみたいだよ」と教えてくれた。向かいの雑貨店の窓が割られているのも、何か関係がありそうだ。

 「あなた宛ての荷物が何かのミスでここにあるから、取りに来てください」。自宅から遠く離れたこの郵便局から、理不尽な呼び出し電話をもらったのはその日の朝だった。

 そこは「よくない」といわれる地区。語学学校の教師が「パリ郊外には危ない場所がいくつもあるの。私は燃やされた車を見たことがある」と語っていたのを思い出した。パリと周辺の治安は改善しているが、すさんだ地区も多いのだという。

 最寄り駅を出ると道行く人の身なりがみすぼらしいのに気付かされた。人種は多様で、ここでは西欧人が少数派だ。裏道に入ると、たむろしていた北アフリカ系の男たちににらまれる。東欧系の高齢男性が孫とおぼしき少年をステッキで殴り始めても、周囲は無関心だ。身の危険は感じないが、花の都とは無縁の空気に圧倒された。

 結局、荷物を受け取れたのは4日後。駅への道を急いでいると、目の前を真っ黒焦げの乗用車が、レッカー車に引かれて通り過ぎていった。 (野村悦芳)