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九フン 夜の賑わいも戻るか

2011年10月27日

 台湾北部の山の斜面にへばりつくような観光地、九フン(きゅうふん)に「昇平戯院」が25年ぶりにリニューアルオープンした。日本統治時代の1927年に芝居や映画の昇平座として建てられ、戦後は昇平戯院と名称を変えたが、街が寂れ、1986年閉館。

 劇場は2階建て、昔の小学校の教室のような木の椅子の客席は約200。天井には大きな扇風機、壁に「大盲侠」(座頭市)など懐かしい映画のポスターが張ってある。オープニングセレモニーでは白黒の「東京物語」の一部が上映され、映画監督の呉念真さんが弁士を務め、笠智衆や原節子のせりふを中国語で語った。

 九フンの山一つ向こうで育った呉監督は「子供のころ、よくここに映画を見に来ました。歩いて40分。日本の映画はよく見た。石原裕次郎。それから小林…、小林…、小林旭!」。当時は「ただで映画を見られるから将来、弁士になろうと思っていた」とも。その呉監督はその後、九フンを舞台に映画「多桑」(トーサン)を撮った。

 呉監督が通ったころの九フンは金鉱山の町。茶館やキャバレーなども連なり、小上海と呼ばれるほど賑(にぎ)わった。今はその昔の街並みを楽しむ昼の観光地。昇平戯院の映画上映は週末の夕方から。老舗映画館の再登場で夜の観光客も増やそうとしている。 (迫田勝敏)