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バンコク スラムから開く未来

2011年11月15日

 高層ビルが林立するバンコク中心部から車でわずか15分。チャオプラヤ川沿いに広がるタイ最大のクロントイスラムには、約10万人の貧困層が暮らす。

 表通りは車やバイクが駐車し、商店や食堂が軒を連ねる。一見、下町の風情だが、一歩中に入ると、廃材でつくったあばら家がびっしりと並んでいる。今度のタイの大洪水で、川が氾濫すれば真っ先に水につかる地区だ。

 日雇い労働や行商、屋台、バイクタクシーと住民の仕事はさまざま。家庭の事情で、進学できない子どもは多く、学歴社会のタイではよく、「スラムに生まれると抜け出すのは容易でない」と言われる。そこで先日、学業や社会活動に励む若者の表彰式があった。

 16~23歳の学生ボランティアや看護師ら男女9人。感動的だったのは、スピーチで全員が原稿を見ずに夢や希望を生き生きと披露したことだった。「悲しいことばかり考えていると、明るい夢が見られない。仲間と社会貢献がしたい」。高校2年の女子タナーさん(17)は終始笑顔で語りかけた。

 表彰式を主催したプラティープ財団のラダパンさん(47)は「希望を持って努力する若者から、私たちも励まされる」と目を細めた。過酷な環境にもめげずに未来を切りひらく若者たち。そこには確かな輝きとたくましさがあった。(杉谷剛)