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ラスベガス 小市民父の敵討てず

2011年11月30日

 「不景気なんだからカネを落としていってくれ」。米ネバダ州で取材した男性から勧められた。確かに不夜城ラスベガスでカジノを試さない手はない。ルーレットにしよう。0、00、1~36の目からボールの落ちる場所を予想するゲームだ。

 ディーラーは1回に1ドルチップ10枚以上を賭けろと言う。出目なんて予想できない。やむを得ず「それなら鈴木孝政29。隣は郭源治30。少し離れて小松辰雄34、後に20でどうだ」と往年のドラゴンズ名投手に賭けてみたが、チップはみるみる減っていく。

 ばくちは負けるから楽しい。負けが込むほどに勝利の味は甘い。極論すれば、身を滅ぼす一歩手前の瞬間こそが醍醐味(だいごみ)なのだろう。亡き父は生前、ベガスで一晩に1000ドルすったことがあるそうだ。

 幸か不幸か、息子にはそんなスリルを試す度量はない。乏しい経験から得た小市民のギャンブル必勝法は、一にやらない、二にやめ時を間違えない-だ。2時間後。何とかチップは倍に増えた。もうけは数十ドル。「よし。ここでやめよう」。小市民理論の発動だ。

 未明、ホテルの自室で高度成長時代のサラリーマンだった父の豪胆さをしのんだ。そういえば、この日、ベガスで日本人の姿はほとんど見かけず、英語のほかに飛び交っていた言葉は中国語だった。 (竹内洋一)