2011年12月29日
「どうぞ」-。
黒の日本製スポーツ車を降りた彼は、助手席側に回り、さっとドアを開けてくれた。中国でドアを開けてもらうことなど、あまりない。彼のスマートな身のこなしに、ぎこちなく「あっ、どうも…」。
「中国一の金持ち村」と呼ばれる江蘇省華西村。今日(こんにち)の繁栄は文化大革命の混乱期、闇の農機具作りに端を発する。改革開放後に立ち上げた村営企業は鉄鋼など60に上り、年商は6000億円を超える。
紡績企業で働く彼は、23歳。年収は農民の全国平均の30倍。ほかに株の配当があり、家族5人で、豪邸2軒とベンツなど車4台。休みはほとんどないが「勤勉が一番。娯楽など不要。不満はありません」。
そこまで言い切られたら「そうでございますか」と返すほかない。でも当方、恥ずかしながらそんな禁欲的な生活はできない。
その夜も、外で一杯やろうと村を歩いた。が、午後8時で、どこも真っ暗。仕方なく、唯一開いていた売店で友人が調達してきたビールをちびり。
それにしても、23歳といえば遊びたい盛り。翌日、彼にただした。「ホントは遊んでるんでしょ」。しばらく置き、小声で「実は、車で30分の隣町にカラオケがありまして…」。カッコつけずに、初めから言いなよ。(朝田憲祐)