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ローマ 歴史の躓き忘れない

2012年02月09日

 ローマ市内の集合住宅の玄関前で、金色に光るものに躓(つまず)きそうになった。真ちゅう板が2枚、舗道に埋められている。

 浮き彫りされた文字を読んでみた。

 「ここに住んでいたアウグスト・ピぺルノ(1874年生まれ)は1943年10月16日アウシュビッツに送られ10月23日殺害された」。もう1枚は同じ運命にあった妻ビルジニア(1885年生まれ)のものだ。

 守衛によると、昼すぎに学生・市民ら200人ほどの人たちが集まり、ベルリンのアーティスト、ギュンター・デニグさんが銘板を埋めた。

 銘板を冠した「躓き石」(10センチ立方)は、デニグさんがナチスの強制収容所に送られ犠牲となったユダヤ人らを記憶するため1995年に埋め始め、これまでに欧州各地に2万個以上も埋め込まれている。

 ローマ市内での埋設は最近では3回目。過去2年間に埋めた84個に加えて、新たに72個が市内各所に埋設された。

 しかし、悲しいことに埋めた翌日、何者かにより、ユダヤ人姉妹にささげられた3個の「石」が取り外され、もとの舗床の石に戻された。

 ホロコーストを思い起こすために、慌ただしい日常のなかでも「躓く」ことの意味は深そうだ。 (佐藤康夫)