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アトランタ シンプルなリーダー

2012年02月21日

 玄関前、踏み付けたものを取り上げるとクルミの実だった。空を見上げると、すっかり葉の落ちた大木が枝を大きく張り巡らしていた。遠くで鳥が鳴いていた。

 米ジョージア州アトランタ郊外の人口約800人の小さな町。取材で訪れたカーター元大統領(87)の自宅は大自然の中にあった。平屋の1軒家は米国の中流世帯が暮らすような大きさで、通された応接間は8畳ほどだった。

 町の中心部には雑貨店と病院、食堂、宿舎など数店が並ぶだけ。隣町のスーパーに行くのにも30分以上かかる。町の食堂で働く女性は「ミスター・プレジデント(大統領)と夫人は、自転車で食堂にも来るのよ」と誇らしげだった。

 地元の教会の日曜学校では、今も教壇に立つ。私が自宅を訪ねた日も、教会の講義を終えて帰宅したところだった。

 すっかり白髪になった元大統領だが、青い目は鋭く輝いていた。短時間で矢継ぎ早に質問しようとする私を「もう十分だろ」と制した声にも迫力を感じた。

 最も複雑で繁忙な米政治のトップに立った人が、時が止まったかのような故郷の田舎町で祈りをささげながら、妻と2人で暮らす。

 時間に振り回されてばかりの私たちに「シンプルライフ」のぜいたくさを教えてくれたような気がした。(長田弘己)