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長春 損はしなかったけど

2012年02月28日

 吉林省の長春市内から郊外の空港まで行こうとタクシーを拾った。運転手は「メーターは倒さず120元(約1400円)。領収書は出せない。帰りは客を乗せず空で戻るから」と言う。飛行機の時間が迫っている。空港から市内まで来た時はバスで20元だったので、そんなものだろうと思い金を払った。

 空港までほぼ中間点の高速道路の入り口の手前で車が突然止まった。「友達がいる」と勝手に運転席を降りていくではないか。あっけにとられていると、「向こうのタクシーに乗ってくれ」。

 運転手は友達氏に金を渡したようだ。「彼はただで空港まで送る」。そりゃそうだ。私が後部座席に乗り込むと、もう1台、別のタクシーが脇に停車。その運転手は友達氏に20元払った。

 新たに中国人客が助手席に乗り込み、友達氏は私たち2人を乗せて高速道路へ。時速120キロで走りながら、携帯電話でおしゃべりを始める。何とか無事に着くと、メーターを巧みに操作し、ちゃんと120元の領収書をくれた。

 よく考えると誰も損をしていない。私の払った金はうまく運転手たちに分配され、徴税対象にもならない“地下経済”に吸い込まれたのかもしれない。友達氏は私に名刺を渡し、「長春に来たら、また連絡してくれ」。ちょっと考えちゃうよなあ。(渡部圭)