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ソウル 第三の「犬生」幸あれ

2012年03月02日

 人生ならぬ犬生の第一幕を麻薬探知犬として、第二幕を供血犬として送った犬が引退し、引き取り手がなければ安楽死となる-。そんな話が韓国紙の中央日報に載った。

 名はエッジ。人なら65歳ほどという11歳のオス。黒毛で体長65センチのラブラドルレトリバー種だ。

 供血犬という存在を初めて知った。ソウル大動物病院で飼われ、他の犬の緊急輸血用に毎月、300ccを採血されてきた。首に注射針を刺されるときは、今でもおびえる。2008年以来、エッジの血で助かった犬は50頭以上という。

 若き麻薬探知犬時代は、仁川国際空港で活躍した。いわば犬生の第一幕は世のために、第二幕は他の犬たちのためにささげた。

 一見愛嬌(あいきょう)がない寡黙な老犬を獣医師らは「物静かな宗教家のよう」と表現する。麻薬を嗅ぎ当てた自慢の鼻の周りの毛は加齢で白くなっている。記事は「もうボクも他人のための犠牲ではない、ボクのための第三幕の生活を送ってみたい」と締めくくられていた。

 1週間後、続報が載った。引き取り申し出が100件を超えたのだ。小学生の男の子は「エッジのために使って」と小遣いを手紙で届け、米国からも問い合わせがあったという。エッジが新しい主人の懐に抱かれ、安らかに過ごすことを願う。(辻渕智之)