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シャトールー 笑えない「ぬれぎぬ」

2012年05月25日

 会場の各所からの鋭い視線で、自分の置かれた立場に気が付いた。フランスの極右政党・国民戦線が大統領選に向け、同国中部の小都市で開いた選挙集会。壇上の党幹部は、ある中国企業がもたらしてきた悪影響をしきりに批判している。「彼らはただフランス製という名前が欲しいだけで、フランス人の雇用のことは一切、考えていない」

 詳しいいきさつは分からなかったが、排外主義的な政党の主張としては、決して意外な内容ではない。問題は会場に東洋人が1人しかいなかったこと。そして、フランス人には中国人と日本人の区別が難しいことだった。理不尽にも敵意のこもった視線にさらされていたのだ。

 集会の終わりに、近づいて来たのは初老の男性だった。「あなたは中国人か?」と険しい表情。どうやら中国かその企業に対してひとこと言いたいらしい。日本人だと否定すると、釈然としない表情で去っていった。

 国民戦線は、人々の不満を吸収し、批判の矛先を巧みにイスラム系移民や権力者、左派などに向けることで、若者や労働者層、地方在住者らから人気を得てきた。日本や日本人が将来、同党の標的になる可能性は否定できない。今回はまったくの「ぬれぎぬ」ではあったが、決して笑うことができない体験だ。 (野村悦芳)