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アンタクヤ 弾圧下に生きる強さ

2012年07月13日

 数人のシリア人たちと、トルコ南部アンタクヤで、簡素なテーブルを囲む機会があった。アサド政権の弾圧を逃れ、国境を越えてやっと難民キャンプにたどり着いた人々だ。

 ある青年(25)は右足を失って松葉づえ姿。村から友人らと脱出する際、道に仕掛けられた地雷を踏んでしまった。政権は自国民を弾圧した上、国外に逃げることも許さない。

 職業は農業。「義足を作ればまた働けるようになるさ。少しやっかいだが大丈夫。もちろん、武器があれば政権と戦う」と話す。

 1年余り投獄されていた男性(36)も。2日前に釈放され、前日にキャンプに着いたばかり。刑務所では食事は毎日パン1個。拷問に耐え、生き延びた。

 青白くやせ細り、時折せき込む。職業は詩人という。取材を終えると、記者に詩を贈りたいと言いだした。

    ◇

 あなた(記者)の目を見た時、私には死は何でもなくなった。

 あなたの心を、1時間半だけ下さい。

 私と世界にとってそれだけで十分です。

    ◇

 即興で朗々と吟じると、その場で拍手と笑顔がわっとはじけた。

 参加者らの体験談は、どれも過酷だ。だが、逆境でも前向きに生きようとする姿に、人間の強さを感じた。

 詩は、いささか情熱的すぎて気恥ずかしかったが…。 (今村実)