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ローマ 「血のサミット」映す

2012年08月28日

 映画「DIAZ」が話題だ。舞台は2001年7月のイタリア北部ジェノバ。ディアツとは市内の中学校の名で、主要国首脳会議(G8サミット)開催時、国際メディアセンターが設置された。

 会議場周辺は高さ5メートルの鉄柵で囲われ、戦後最大規模の1万8000人の警官を動員。厳戒態勢が敷かれた。会議前日20万人が参加した反G8デモは、乳母車を押す夫婦も参加する平和な行進だった。会議初日は一転、デモ隊と警官隊が衝突。23歳の青年を20歳の警官が射殺、初の血塗られたサミットとして世界に報道された。

 そしてG8最終日の夜、数100人の機動隊がディアツ校を急襲し、居合わせた無抵抗の青年らを殴打。校舎の壁と床は血で染まり、63人が病院に搬送された。警察に連行された93人は長時間、治療もされずに両手を上げて立たされ、女性は全裸にされた。

 国際人権団体は「欧米先進国で戦後行われた最悪の人権侵害」と糾弾。警官ら125人が告発された1審、2審では16人が有罪判決を受けた。最高裁の最終判断に、関心が集まっている。

 映画は裁判で明らかになった事実を淡々と追うのみで、政治的意図や政治責任の解明には立ち入らない。制服姿で観賞していた若い警察官3人が、神妙な面持ちで静かに席を立った。 (佐藤康夫)