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ソウル 豊かな食戻る日は…

2012年08月23日

 夏になると食堂の軒先に「冷麺」と書かれた旗が翻る。「冷やし中華始めました」との張り紙につられるように、つい旗にひかれて注文している。

 牛肉や鶏肉でとったダシに水キムチの汁を混ぜたスープで味わう「ムル(水)冷麺」。冷たいスープにからんだソバ粉主体の麺をすすると、のどから胃へ涼しさが駆け抜ける。

 「ビビム(混ぜる)冷麺」は、ジャガイモなどのでんぷんを主原料にした麺と、唐辛子ミソ基調の合わせ調味料を混ぜて食べる。辛さでしばし暑さを忘れるのが魅力だ。

 スープ系は平壌が、混ぜ系は日本海側の北朝鮮・咸興(ハムフン)が本場とされる。

 北朝鮮を脱出して韓国入りした知人が「北朝鮮そのままの味」と太鼓判を押す冷麺店を一緒に訪れた。奥が深く、清涼感あふれるスープが印象的だった。

 知人からは「冷麺は本来、儀式などで長寿を祈って食べる。韓国では時々、食べやすくはさみで切るが、とんでもない」と、北朝鮮住民に大事な料理であることも教わった。

 その後、知人が「ソウル3大冷麺」と推す店を巡ってみると、それぞれ薄味で上品なスープが絶品だった。厳しい食糧事情が伝えられる北朝鮮。住民が儀式や日常生活で、本来の豊かな食文化を享受できる日が訪れることを祈らずにはいられない。 (篠ケ瀬祐司)