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プノンペン 惨劇越え未来に願い

2012年08月31日

 「これ、殺された人の骨です」

 カンボジアの首都プノンペン郊外。ポル・ポト政権の大虐殺の舞台になった刑場跡キリング・フィールドで、ガイドの男性セン・レンさん(43)が指さした地面をよく見ると、人の白い骨のかけらや歯が所々、落ちていた。

 広い敷地には100人単位で遺体が埋まっていた大きな穴の跡がいくつもある。計86の穴から約9000の白骨体が見つかり、慰霊塔には数100個の頭蓋骨が収められている。1つ1つガラス越しに見ていると、人々の無念の叫びが聞こえてきそうな錯覚に襲われた。

 カンボジアには大小約350の刑場跡がある。農村での強制労働による餓死を含め、1970年代後半の大虐殺で命を落とした人は推計170万人。現在の人口でも1割以上を占め、「国民の多くは親類に犠牲者がいるはず」とレンさんは言う。自身も父と兄2人と姉が餓死したのを鮮明に覚えている。

 ポル・ポト政権崩壊から33年。あまりの残酷さからか、虐殺の歴史は学校で教えられず、知らない若者が増えている。人々の悲惨な記憶は語り継ぐにはまだ生々しい。

 「それでも歴史を正しく知ることで、子どもは平和の心を持つようになる」とレンさん。そこだけ静まり返った刑場跡で、2児の父は祖国の未来に願いを込めた。 (杉谷剛)