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マリーエンボルン 過去忘れぬチェック

2012年10月09日

 ドイツを東西に走るアウトバーン2号線沿いの同国中部マリーエンボルン。たどり着いた大きな休憩所には、冷戦時代の旧東独側検問所施設が記念館として残されていた。

 ドイツ統一前、東西間を通行する外国人のために西側連合国が設置した検問所は、頭文字ABCをあてたコードネームが付けてあった。東西ベルリン境界上で観光場所として有名なチェックポイント“チャーリー”。東独領と接する西ベルリン南西端のチェックポイント“ブラボー”。ベルリン以外では、中部ヘルムシュテットのチェックポイント“アルファ”。

 このアルファと国境を挟み東側にあったのが、マリーエンボルン検問所。旧ソ連まで広がる社会主義圏と西側社会とのまさに境界線上だった。七・五ヘクタールの敷地に一千人が働き、スパイ小説のような出入国審査、大きな銀屋根の下で小型車からバスまでの徹底的な車両検査など、あの手この手で市民や情報の流出を防いでいた当時の様子が目の前でよみがえってきた。

 西部ケルンから、家族で車旅行中の若い父親は「子どもたちにどう語り継ぐか、記憶も気力も次第に希薄になっていくような気がする」と、神妙な顔つきで話してくれた。記念館はつらい過去を忘れないためのチェックポイントなのだ。

  (弓削雅人)