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文昌 時流もまれる渡し船

2012年10月24日

 中国の海南島東部にある文昌市の渡し船に乗った。渡し場は元来、古くからにぎわう場所。船の到着を待つ採石を積んだ大きなトラックのエンジン音が響く。すぐ隣の漁港では出航前の安全を祈る爆竹の音が鳴り続けた。

 昼下がり、夜市に備え露天商が集まりだした。海南島名物の文昌鶏や、朝採れたばかりのカキやエビ、アサリなどを並べ、売り子が声を張り上げる。

 売り子が「アワビ」と主張するトコブシ大の貝を1個2.5元(約30円)で購入、そばの食堂で焼いてもらった。魚醤(ぎょしょう)をかけて鉄板で焼き、刻んだニンニクを載せて食べると、口の中に磯の香りが広がった。

 片道は2元。「ドッ、ドッ、ドッ」と、エンジンから吐き出される真っ黒な煙にせき込みながら、対岸まで10分ほどの船旅だ。

 渡し船は岸壁を離れて数十秒たつと、街の景色が劇的に変わるところが好きだ。さびだらけの手すりにつかまり振り返ると、喧噪(けんそう)の街が水面に浮かび、静かになってゆっくり遠ざかっていく。

 上流に目をやると、遠くに建設中の高架橋が出現。街のタクシー運転手は「橋ができると楽になるんだが」と完成を待ち望む。誰もが街の発展や生活の向上を願う気持ちは当然だが、旅先で渡し船がどんどんなくなっていくのは少し寂しい。

(安藤淳)