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サウサンプトン ライバルでもエール

2012年12月02日

 別れ際、互いに中指を立て「F」で始まる汚い言葉を浴びせ合う。でも、ともに笑顔。こんな行儀の悪いあいさつは初めてだった。

 相手は酔いどれたサッカーファンの若者。「おまえ、日本人か。ヨシダはいい選手だな」。英国南部サウサンプトンで九月下旬に行われたイングランド・プレミアリーグの試合後、競技場の外で声を掛けられたのが、きっかけだった。

 その日は「サウサンプトンFC」に移籍加入した日本代表DF吉田麻也選手のホームデビュー戦。持ち前の堅守でチームの今季初勝利に貢献した。

 「確かにいいプレーだった。同じ日本人として誇らしいよ」と若者に返して打ち解けたが、明らかに地元サポーターの巨漢はこう付け加えた。「でもカガワはくそ食らえだ」

 くしくも二十日前のホームゲームでは、日本代表MF香川真司選手が所属するマンチェスター・ユナイテッドに完敗。親日というわけではなく、彼には敵か味方が重要なのだ。

 次の問いは予想通り。「おまえはどこのサポーターだ」。身の安全を確認し、恐る恐るからかってみた。「アーセナルさ」。特にひいきのチームはないが、自分が住むロンドンの強豪を挙げた。

 青年はニヤリ。「サウサンプトン」と答えたら、パブで一杯おごってくれたかもしれない。 (小杉敏之)