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モスクワ 生きる力伝える美声 

2013年02月05日

 ロシアには、一流の室内芸術の舞台でロシア人に交じって存在感を示す日本人が少なからずいる。モスクワのアマデウス音楽劇場のソリストとして活躍している平岡貴子さんも、その1人だ。今年11月、モスクワのトルストイ博物館を会場にしたオペラ「魔笛」に出演。ロシア・タタルスタン共和国の首都カザニでも公演し、耳の肥えたロシアのファンから喝采を受けた。

 平岡さんは群馬県高崎市を拠点に、1年の3分の1をロシアで活動する。公演の傍ら、同県安中市の磯部小学校で歌唱指導する一方、2年前からは、モスクワの小学生らに日本文化を伝える自身のオリジナルオペラ「日出(い)ずる国の四季」を教え、11月にはモスクワで、自らも出演する公演を行った。

 中学時代、「ピアノを弾く気取った子」といじめを受けた経験がある。登校せず、河川敷で1日を過ごすようになった時、旧ソ連駐在の商社マンの伯父が贈ってくれたロシア語の歌曲のレコードに心を打たれ、オペラを志すと決めた。目標ができると不登校も克服できたという。

 「人を変える力」があるという音楽の活動を通じ、子どもたちに「生きる力」を伝えたいと語る平岡さん。細身の体から生み出される透き通った声を、これからも日ロ両国で響かせてほしいと思う。 (原誠司)