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パタニ 罪なき教師も標的に

2013年02月07日

 マレーシアと国境で接するタイ南部で、教師がテロで相次ぎ射殺される痛ましい事件が起き、早朝の飛行機でパタニ県へ出かけた。

 空港から車で幹線道路を走ると、林の切れ目から真っ青な朝の海が見えた。のどかな田舎の風景を眺めているうちに睡眠不足でうとうとすると、地元の運転手と雑談していた助手が「この道沿いでも時々爆弾テロがあるそうです」。眠気がいっぺんに吹き飛んだ。

 仏教国のタイにあってイスラム教徒が9割を占める南部3県は、かつてこの地にあったパタニ王国の復活を求める武装勢力が、8年前からテロを繰り返している。だが声明が出ることはなく、複数あるとされる組織の実態も不明で、麻薬や土地をめぐる利権絡みともささやかれる。

 軍や警察だけでなく「政府の協力者」として150人を超す教師も犠牲に。19世紀にタイに併合されたという歴史があっても「丸腰の教師を殺して、一体何を目指すのか」と叫びたくなった。

 現地入りしたインラック首相が対策を協議したホテルの前では、色鮮やかなヒジャブをかぶった大勢の女性が人気の首相を一目見ようと待っていた。「イスラム教徒でもタイ人であることに変わりはない」と助手に話すと「もちろんです」と笑顔が返ってきた。初めてほっとした気持ちになった。 (杉谷剛)