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ストックホルム 莫言さんは平和賞? 

2013年02月03日

 「同じクラスの友達を先生に告げ口したことを今も、悔いている」。今年のノーベル文学賞を受けた中国の作家、莫言さん(57)はストックホルムでの受賞記念講演で小学3年生のころを振り返った。

 当時は、元資産家がつるし上げられた文化大革命の真っただ中。教師が、地主にいじめられている農家の絵を示すと「全員が『ひどい』と泣かなければならなかったが、1人だけ泣かない子がいた」。莫言さんの告げ口で、その子はきつい注意を受けたという。

 莫言さんは聴衆に話し掛けた。「私はこの経験から悟ったのです。みんなが泣いている時に泣かない人を許すべきなのだと」

 長年、莫言さんの作品の日本語版翻訳をしている吉田富夫仏教大名誉教授によると、発言の真意は、受賞決定後に中国作家協会副会長であることだけで「体制作家」と批判の嵐が起きていることへの反論だという。みなで一斉に一方向に動くことへの危惧を表しているそうだ。

 莫言さんはこうも言った。「まずは、私の作品を読んでほしい。それで、批判されるのなら仕方がない」。白銀輝く首都で、道行く人に感想を聞くと、多くの人がこう答えた。「文学賞は作品の内容がまず重要なのではないか。いつから平和賞と同じ趣旨になったの?」と。 (有賀信彦)