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ストーク 愛着の「ブーイング」 

2013年02月06日

 聞き覚えのある声援だった。音質は地鳴りのような「ブーイング」に等しい。英国中部の小都市ストークで先日、プロサッカーの試合を観戦した。満員のスタジアムは、ある特定の選手がボールを持つたびに、独特の重低音に包まれた。

 もしやと思い、手元のメンバー表に目をやった。その選手の名は、地元ストークの元ドイツ代表DFロベルト・フート。すぐに合点がいった。観客の野太い声質もあって、「ブゥー」という響きに聞こえるが、あえて声を絞って「フート」の名を発しているのは間違いなかった。

 ドイツで7年前、初めてフートの試合を見た時は驚いた。自国ファンが一斉に充満させていたのが、あの痛烈な響き。最初は「嫌われ者なのか」と思ったが正反対だった。

 身長191センチ、体重88キロの巨漢。空中戦に負けることはほとんどない。ただ、足でのボールさばきは、お世辞にも「うまい」とは言えない。

 シュートは強力な割にゴールの枠に飛ばず、味方を混乱に陥れるパスミスも多い。一流選手と認知されつつ、ロボットのような硬い動きが、どことなくコミカルに映る。

 ファンにしてみれば、どうしても憎めない存在なのだろう。ブーイングに似せたユニークな声援に、フートへの愛着が込められている。 (小杉敏之)