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済南 留学 明暗分けるもの

2013年02月13日

 整然と並んだ本と凶悪な犯罪とのギャップが埋まらなかった。

 愛知県蟹江町で家族3人が殺傷された強盗殺人事件で、逮捕された容疑者の実家である中国山東省済南を訪ねると、部屋の本棚には日本語学習の本が並んでいた。日本で自動車部品メーカーに就職した際に使ったのだろう「メーカーの基本あれこれ」という本も。

 両親の話では容疑者は成績優秀で手のかからない子どもだったという。だが、来日後しばらく毎日泣いていたといった精神的な不安定さが事件の背景にあった可能性を感じた。

 日本留学経験のある中国人に聞けば、日本での生活になじめない留学生は少なくない。語学力が乏しく日本人とコミュニケーションが取れず、中国人仲間とだけつるんでいたり金銭的に困窮したり。それでも親に言い出せず、足を踏み外すケースもあるという。

 容疑者の実家を訪れた翌日、北京の大学で中国人学生の日本語スピーチコンテストの審査員を務めるという機会があった。

 懸命に日本語を話す姿はすがすがしい。尖閣問題で周囲に日本留学を反対されながらも留学を実現すると夢を語る学生も。原発事故後、日本留学を諦めたという話も聞くだけに、なおさら頼もしい。彼らが実りある留学生活を送ってくれることを願わずにいられなかった。 (佐藤大)