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ソウル へこたれない「竜馬」

2013年03月06日

 夜、暗い青森の海岸をゴムボートでたち、北朝鮮に向かった。「口先だけで統一を論じるのでなく、行動が必要だと思った。在日の坂本竜馬、ここにありとの気概だった」

 冤罪(えんざい)が晴れた在日韓国人二世、具末謨(クマルモ)さん(77)=東京都中野区=とソウルで会った。1970年の密航の目的は朝鮮半島の南北統一を提唱する研究の資料収集と、帰還事業で北朝鮮に渡った姉との再会だったという。

 韓国留学中の翌年、訪朝の事実から突然連行された。拷問で「2回訪朝し、工作指令を受けた」と虚偽の自白を強要され、スパイ罪で10年間服役した。韓国の外交官になり、在日の可能性を示すという夢はついえた。

 滋賀出身。早稲田大政経学部に進学して修士号まで取ったが、就職口はなかった。姉は再会時に「ここで息子は医者になった。差別のある日本で育てるより正しかった」と話したという。

 服役後、戻った日本では「アカ呼ばわり」され、昔の仲間も去った。この30年余も窓のない監獄のようだったと振り返る。昨年末、韓国最高裁で再審無罪を勝ち取った。

 余生は日朝の自由往来と、日韓の真の交流のために尽くす。そう語り、「私はいい意味でロマンチスト、悪い意味でナルシシストだから」と照れた。へこたれない精神に感じ入った。 (辻渕智之)