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ロンドン 五輪特需に勝る伝統

2013年03月12日

 ロンドンに赴任以来、休日に暇ができると、骨董(こっとう)市やアンティーク店をめぐる。家具や絵画、食器から雑貨に至るまで種類は豊富。専門知識はないが、安値の掘り出し物との「一期一会」を楽しんでいる。

 歴史を重んじ、古きを尊ぶ。英国人共通の価値観は建物にも適用される。「新たに土地を開拓しない」という考えもあって、築100年の家はざら。勤務先のビルも1800年代に建てられている。

 有名な例外がある。ロンドン東部の荒廃した工業地帯に開発され、昨夏の五輪メーン会場となった五輪公園。2014年の再オープンに向けた再整備で閉園中だが、20年夏季五輪開催を目指す東京の五輪招致委員会が現地視察した先日、同行取材で入園した。

 招致委が公園の「跡地利用」として大きな興味を示したのは、大会で約1万6000人が入居した選手村の宿泊棟だ。計画では民間に払い下げ、マンションとして一般販売されるが、視察の案内人は「まずは賃貸で供給が開始される」と強調した。

 「理由?こんなに大量の新築物件が英国で供給されるのは歴史的にまれ。一気に販売すると、既存住宅の価格が下落してしまう」。安易な商魂を遠ざけ、古さの価値を尊重。100年後のここも、ほぼ同じ姿で五輪の成功を伝えているのだろう。 (小杉敏之)