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ニューヨーク 譲れぬズルズル攻防

2013年03月15日

 「ズルッ」。ランチタイムのピークも過ぎ、人影まばらの店内でざるそばをすすっていた。

 ここは、米ニューヨーク支局から数分の日本食レストラン。

 隣のテーブルに座っていた米国人の中年女性が、そばをすする度にジロッと厳しい視線を投げ掛けてきた。

 少しでも音がすると、女性はチラッ、チラッと無言の圧力をかけてくる。こちらも意地になってズルズル。

 数分の攻防のうち、我慢できず思わず聞いてしまった。

 「音が気になりますか?」「食べる気がうせるわ」

 そこまで言うならと、日本での粋なそばの食べ方を説明したが、日本を一度も訪れたことがないという女性は「ここはアメリカよ」とかたくな。

 米国では食事マナーで「音をたてない」ことが重要視される。日本でも基本はそうだが、そばはのど越しを楽しむために、音を立てて食べる人が多い。

 気まずい沈黙。女性は私に背を向け、新聞を読み始めた。

 その時、「ズル、ズル、ズル」とかすかな音。少し離れた席で、中年カップルがそばを食べていた。

 「よく知ってますね」。思わず声を掛けると、男性の方が「ニホン、ダイスキ。オイシイ」と日本語で応じた。カップルはイタリア・ローマからの観光客だった。 (長田弘己)