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ロンドン 「愛娘」ほろ苦デビュー

2013年03月23日

 底冷えするロンドンの冬場。取材の合間、暖を取りにカフェへ。空席を探していると重く柔らかい物体につまずいた。

 思わず「ソーリー(ごめん)」と口にして床を見れば、黒い大型犬が横たわっていた。さすがに「痛いな」とは言われなかったが、上目遣いでこちらを見るだけ。どうやら店の“常連客”らしい。

 わが家にも雌の飼い犬がいる。「リラ」と名付けた小型犬のトイプードルだ。妻は「私のおなかから生まれた愛(まな)娘なの」と溺愛。「箱入り娘」として育つが、英国人は犬を人生の「パートナー」と位置付けているようだ。

 動物愛護の国だけあって、公共の場でも人間とほぼ同格の扱い。電車やバスのほか、飲食店、スーパーでも犬の姿をたびたび見掛ける。しつけが行き届いているため行儀は良く、ほえることもない。

 驚くのは周囲のリラに対する関心だ。日本では見慣れた犬種だが、中大型犬が多い英国では珍しいとか。散歩中、ふわふわした薄茶の巻き毛は絶賛の嵐。わざわざ車を降りて「どこで買ったの」と質問する人もいれば、「いくらなら売ってくれる」と聞く老婦人も。

 今やわが家の親善大使だが、「地下鉄デビュー」した先日、緊張したリラは震えが止まらない。車内の視線が痛い。過保護をさらしたようで、夫婦で赤面した。 (小杉敏之)