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シルバーストーン 心意気プライスレス 

2013年03月29日

 「本当に返金したんだ」。そんな言葉が思わず口からこぼれた。銀行口座に最近、35ポンド(約5000円)が振り込まれたからだ。

 昨夏、英中部シルバーストーンで行われたF1グランプリ(GP)の観戦に出掛けた。レースは予定通り行われたが、フリー走行から決勝まで3日間通しでのみ販売されているチケット代の一部が返金されたのだ。なぜか。実は、土曜日の予選までは大雨が降ったことと関係する。

 レース場で問題となったのは、入り口からスタンドまでの歩道だった。むき出しの土や芝生は雨の中、十数万人が歩けば、泥沼と化す。日曜日は曇りの予報が出ていた。主催者は決勝日にベストの状態で観客を迎えたかったのだろう。思い切った作戦に出た。

 「どうか、金、土曜日の観戦を控えてください」。そんな呼び掛けがテレビを通して、盛んに流れた。自分の開くイベントに「頼むから、来ないで」とお願いするのは異例と言っていいだろう。

 アナウンスが効いたのか、2日間の観戦者は実際、少なかった。だが「大量の観客への払い戻しはさすがに無理だろう」と期待もしていなかった。ところが半年たっての35ポンドの振り込み。チケット代は数百ポンドなのだが、返金はその額以上に、F1をこよなく愛する英国人の心意気を感じさせた。 (有賀信彦)