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アレクサンドリア 増える日常の想定外

2013年04月06日

 渋滞に差し掛かって車を停止したとたん、10数人の集団に取り囲まれた。力任せに車体を揺すり、あっという間に、フロントガラスをたたき割られた。どの顔も殺気立ち、何か大声で叫んでいる。

 運転席の助手によると「ぶっ殺す」と言っているらしい。エジプト北部アレクサンドリア近郊でのことだ。

 強盗だ。自動車を狙った犯罪は昨今、当地では珍しくない。先日も中央銀行総裁の車が何者かに奪われたばかり。まぁ、じたばたしても仕方ない。相手の出方をじっくりうかがい…と考える間もなく、激怒した助手が飛び出し口論を始めた。

 ここから先が、想定外だった。強盗だと思った群衆は、ひき逃げ事件の被害者の親族らだといい、われわれの車が「犯人だ」と言う。「現場から逃げた黒っぽい車」という情報が根拠らしいが、全くのぬれぎぬである。

 「車のどこにはねた跡がある?」と反論したが、彼らは頭に血が上って聞く耳を持たない。そうこうしているうち、警察が到着。一瞥(いちべつ)して無関係と判断し、目撃者も現れてようやく疑いが晴れた。早とちりに気付いた群衆は、平謝りだった。

 この国で暮らすのに、日本の常識はとうに捨てている。だが、時に想像を超えた出来事が起きる。政情の混乱が深まる中、その頻度は高まっているような気もする。(今村実)