2013年05月24日
当地の魚介類料理には名脇役がいる。セリだ。日本では七草がゆでお目にかかる程度。こちらでは鍋や蒸し料理に、たっぷりと使われる。
セリの命は独特の香りと歯触りだ。ぶつ切りのフグや貝と一緒にほおばると、海の香りとセリのさわやかさが口中に広がる。唐辛子ミソであえた蒸しアンコウの弾力とセリのしゃきしゃき感は、これ以上ない組み合わせだ。
ビタミンたっぷりで肝臓にいい、頭もさえると良いことずくめ。単身赴任の記者はセリを鍋に追加してもらい、野菜不足を補っている。
韓国で脇役でも、この季節の北朝鮮の食卓では主役だという。
北朝鮮では田植えシーズンに、都市住民は農村支援に駆り出される。「そこでヒルに血を吸われながらセリを採り、酢漬けにしたセリを毎日食べていた」と、脱北者の友人は振り返る。
魚介類と一緒に食べてちょうどいい香りも毎日、単品で食べるのはきつかろう。体に良くても、同じものばかりでは栄養バランス向上は望むべくもない。
四月末から五月上旬、ソウルでは「北韓(北朝鮮)自由週間」として、北朝鮮住民の人権向上を目指す行事が行われた。かの地でもセリを本来の脇役として楽しめる日まで、この取り組みは続くのだろう。 (篠ケ瀬祐司)