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ロンドン 歓待にもペン緩めず

2013年06月07日

 シェフがローストビーフを振るまっていた。さらにシーフードやデザートも。各種の料理が並ぶビュッフェスタイル。試合後に監督の記者会見場ともなるメディア専用ルームは、ホテルのレストランのようだった。

 サッカーの取材で先日、ロンドン市西部の高級住宅街チェルシーにあるスタジアム「スタンフォード・ブリッジ」を訪れた。イングランド・プレミアリーグの強豪チェルシーの本拠地。ロシアの石油王がオーナーの「金満クラブ」とやゆされるだけあって、試合前のサービスも豪勢だ。

 イングランドでは、どのクラブも無料の食事を報道陣に用意して迎える。ただ、メニューは1種類程度。パスタやシチュー、パイ生地に肉など詰めた英国伝統の「パスティ」といった庶民的な味が多い。これにパンか大量のポテトが付く。

 初めは「炭水化物ばかりじゃないか」と思ったが、サッカーは歴史的に労働者階級の人々に支持されてきたスポーツ。現地の記者によると、腹にたまる食事こそ最高の「もてなし」なのだという。

 だとすれば、チェルシーは流儀に反する。豪華なビュッフェは意味ありげな“メディア懐柔策”にも映る。会見後はワインやビールも出たが、辛口で知られる英国人記者のペン先は健全。翌朝の紙面に容赦の気配はまるでなかった。 (小杉敏之)