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北京 生活感ある床屋さん

2013年06月21日

 ここ数年で物価が急騰したとはいえ、まだまだ日本より安いものは少なくない。自宅近くの行きつけの理髪店はなんと10元(約160円)。設備は率直に言ってお粗末で、ひげそりなど細かいサービスはないものの、日本の格安理髪店も真っ青の低料金だ。

 店は四川省出身の女性が理髪師として1人で仕切っており、週末も朝から夜遅くまで開いているため男女問わず近所の住民が利用している。職住一体のようで夜に訪れると、仕事から帰った夫が店内備え付けのテレビを見ていたり、小学生とみられる息子がテレビの前にあるテーブルで宿題をしているなど生活感いっぱいだ。

 ところが最近は夜に店の前を通ると入り口が閉まっていたのでいぶかしんでいた。先日、昼間に店を訪れると女性は「息子がもうすぐ受験なの」と事情を説明してくれた。6月下旬に上の息子の高校受験があるため、店を早めに閉めて息子に店内で勉強させているという。

 状況からみて、勉強できる個室や学習塾に通うお金があるようには見えない。だからこそせめて静かな環境を提供しようという親の気持ちが伝わってきた。テレビ好きな弟もこの1カ月ばかりは我慢しているのだろう。家族の思いが受験結果につながればと願いつつ10元札を渡して店を出た。 (新貝憲弘)