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都江堰 何も言えぬ震災遺族

2013年06月20日

 尾行されるという気持ち悪さを初めて味わった。

 約8万7000人が犠牲になった中国・四川大地震から5年を迎えるにあたって、都江堰など被災地を取材した。手抜き工事が原因で学校校舎が倒壊し、多くの子どもが亡くなったとされるが、政府はいまだに調査すらしていない。遺族の今を知りたかった。

 ホテルを出てタクシーに乗ると、2人組の男が車でぴたりと追い掛けてきた。鋭い目つき。地元の公安当局に間違いない。取材先に迷惑を掛けてはいけないと、目的地を「震災遺跡」に変更して観光を装ったが、男たちは観光客に紛れてつけてきて、こちらの様子を撮影している。声を掛けてくることはないまま、尾行は帰りの空港まで続いた。

 事前に連絡を取り、取材を了承していた遺族からは、当日の朝になって「母親が死んだ。来なくていい」というメールが来た。恐らく事実ではなく、連絡のやりとりが盗聴されるなどして、当局から圧力がかけられた可能性が高い。

 北京まで陳情に行こうとした遺族らが拘束されたケースも多いと聞く。5年を経てもなお、遺族らがこれほどまでに抑圧されているとは。政府が言い立てる「復興」の陰で、不満の声すら上げられない人たちがいることが何ともやるせない。 (佐藤大)