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イスタンブール 少数派の声も聞いて

2013年07月16日

 横転した車、急ごしらえのバリケード。殺伐とした光景の中、黒髪の美しい女性がフルートを奏で始めた。すぐに人だかりができ、拍手がわいた。

 5月末から、反政府デモが続いたトルコ・イスタンブールのゲジ公園。女性は20代半ばだろうか。また1曲。澄んだ音色に周囲の心が1つになった。デモのいろんな参加の仕方があるものだ。

 デモの拠点となったゲジ公園は、若者ら数百人がテントに泊まり込んだ。仕事や学校が終わった夜は、数千人が政治を語り合った。

 反政府デモの発端は政権が進めるこの公園の再開発への抗議。ゲジ公園は世界中どこにでもある、こぢんまりとした憩いの場だ。

 デモの男子学生(19)は「エルドアン首相は人々の意思に関係なく、自分のやりたいことをやる。『ノー』と言いにここへ来た」。

 首相の目に若者らは「ひと握りの心ない襲撃者」や、「テロリストに操られた有象無象」と映る。首相は数十万人の支持者を集会に動員し数の力を見せつけた。それに比べれば、数千人のデモは多数派でないかもしれない。

 だが、反対派や少数派の声に耳を傾ける寛容こそ、成熟した民主国家の証しだ。首相に就任し10年余。力ずくでデモを排除するやり方をいさめる人は、側近からも追い出されてしまったのだろうか。(今村実)